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国会における意見陳述

第159回国会 衆議院/厚生労働委員会議録 15号 年金改革関連法案に関する参考人意見 2004年4月22日

高山でございます。

「本日は衆議院厚生労働委員会にお招きくださいまして、まことにありがとうございます。参考人として年金関連法案に意見を申し述べ得る機会をちょうだいいたしましたこと、大変光栄に存じます。

以下、11点にわたり意見を申し述べます。

1.日本の公的年金は2000年3月末の段階で約600兆円の超過債務となっていました。この債務超過は、既に政府が支払い約束をした年金給付のうち、財源が手当されない金額でございます。この債務超過の圧縮問題、すなわち、600兆円の追加資金をだれが、いつ、どのように負担するのかという問題こそが、今回の年金改革における主要テーマにほかなりません。この問題を、以下、問題1と呼びます。求められているのは負担の構造改革でございます。

2.他方、公的年金制度への信頼は、今、かってないほど揺らいでおります。年金制度に対する信頼をどのように取り戻すかという問題について的確に回答を与えることも、今回における年金改革の重要なテーマでございます。以下、この問題を問題2と呼びます。

3.政府提出の改正法案は、問題1について、@年金保険料の引き上げ、A国庫負担の引き上げ、B給付水準の実質的引き下げ、の3つによって債務超過を圧縮・解消しようとしております。これからの15年間、毎年1兆5000億円前後の定期的な年金負担増計画となっております。政府案が実現いたしますと、企業は従来よりも一段と厳しいリストラを強行せざるを得なくなります。また、その結果、厚生年金の空洞化が一層進み、多数の若者が労働力市場から締め出されてしまいます。現役労働者の手取り所得は伸びなやみ、消費支出も低迷してしまいます。失業率は上昇し、結果として経済成長が阻害されてしまいます。さらに、若者にとっては年金負担の方が年金給付より大きくなるおそれが強く、若者の年金不信を取り除くことはできません。

4.既に年金を受給しているお年寄りの年金給付も、これから20年近くにわたって実質目減りが続きます。政府シナリオの基準ケースを想定しますと、モデル年金受給世帯の年金水準は50%台から40%強まで低下いたします。給付水準の50%保証は既裁定年金にはございません。詳細はお手元の図の1と2をごらんになっていただきたいと思います。

5.政府案は保険料水準固定方式と呼ばれておりますけれども、同時に給付水準固定方式という性格を兼ね備えております。この2つの約束を同時に守ることは容易ではありません。将来シナリオが狂うということはよくあることでございますが、仮にそうなった場合、受給開始年齢のさらなる引き上げに追い込まれるおそれが強うございます。

6.政府案による国庫負担の引き上げが実現しますと、税金のむだ遣いが増えてしまいます。なぜ年金に税金を投入するのかという点について、原点に立ち返った議論が必要でございます。

7.問題1と問題2の解決に当たって、政策割り当てを間違ってはいけません。問題2を解決するためには、スウェーデン流のみなし掛金建てへ切りかえるのが最善でございます。拠出した保険料は年をとったら必ず年金給付の形で返ってくる、そのような安心のできる仕組みをだれにもわかるような形でつくること、そういうことによって、制度への加入意欲を高めるのでございます。なお、その際、過去拠出分との区分経理が求められます。

8.問題1は、年金保険料を引き上げることの是非をどう判断するかによって解決の方法が違ってきます。他の代替的な手段との比較検討を十分になさった上で、解決方法を決めなくてはなりません。

9.また給付の実質的な引き下げも、年金額の多寡にかかわらず一律に行うのか、あるいは高額の年金給付を受給している人に率先して譲ってもらうのかのいずれかによって、改正案の具体的な内容が異なってきます。

10.年金数理部局を厚生労働省から分離して、公正取引委員会や会計検査院のような中立かつ独立の機関とする必要がございます。タックスペイヤーの立場からしますと、与党の政府案づくりだけに協力する現行の仕組みは改めなければなりません。ちなみにアメリカ合衆国の年金数理部局は与党ばかりでなく、野党や民間のシンクタンク、さらには大学の研究者に対しても公平かつ中立的に情報を提供しています。そのような仕組みが政策論議を中身の濃いものにしているのです。

11.最後に、政治への期待を申し上げます。信頼と安心の年金制度、それは、国民が究極的に政治家と政府をどこまで信頼することができるかにかかっております。政治家が第1に追求すべきものは国民の間にわきあがる信頼であり、名声である。これは故石橋湛山首相がおっしゃったお言葉でございます。白虎のように天下を睥睨し、将来を冷徹な目でお見据えになってください。そして、知恵を広くお求めになり、あらゆる政策手段について想をお練りになってください。新しい政策展開によってどのような帰結がもたらされるのか、そのことについて想像力をたくましくなさってください。その上で、重い決断をなさっていただきたく存じます。

どうか審議を十分尽くしていただきたい。数の論理だけを優先させ、強行採決を繰りかえすということはぜひとも避けていただきたく存じます。

ご清聴ありがとうございました。

図1 世代別にみた既裁定年金の水準と現役の手取り月収
モデル年金受給世帯:基準ケース
図2 世代別にみた既裁定年金の所得代替率
モデル年金受給世帯:基準ケース

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